IPO(新規公開株)は儲からない事実
皆さん新規公開株(IPO)はご存知ですか?
新興企業などが市場に株式を上場する際、投資家に出資を募るもので、非常に高い勝率と人気銘柄の爆発力に魅せられ多くの投資家が参加しているとあって、ほとんどの方はご存知なのではないでしょうか。
リートなど一部の地雷を掴まない限り初値売りで損をすることはほとんどないため、IPOは「リスクなく儲かる投資」として知られます。
しかしそれって本当なのでしょうか?
ほとんどの株式投資サイトは「IPOは儲かる」「マジうま~」とか書いている現実がありますが、ここではちょっと違う視点でIPOが儲かるのかどうかを検証してみたいと思います。
IPOが儲かるとされる理由
そもそもなぜ新規公開株(IPO)は儲かるとされているのか?その理由は大きく分けて以下の3つになります。
- 初値が公募価格を上回る確率が驚くほど高い
- 初値が公募価格の数倍になることがザラにある
- 元手がかからない
詳しく見ていきましょう。
公募価格を上回る確率が高い
IPOの最大の強みといえば、当該株式の上場時に付ける初値がIPO当選時に購入する額(=公募価格)を上回る可能性が極めて高いという点です。まずは2009年から2018年までの10年間のIPOの勝率を見てみろ。
勝敗 | 勝率 | |
---|---|---|
2018年 | 46勝5敗 | 90.2% |
2017年 | 84勝10敗 | 89.4% |
2016年 | 70勝21敗1分 | 76.1% |
2015年 | 84勝11敗2分 | 86.6% |
2014年 | 65勝15敗3分 | 78.3% |
2013年 | 56勝3敗1分 | 93.3% |
2012年 | 39勝11敗 | 78% |
2011年 | 19勝14敗3分 | 52.8% |
2010年 | 10勝9敗3分 | 45.5% |
2009年 | 13勝4敗2分 | 68.4% |
これは公募価格と初値に勝敗をつけたもので、初値が公募価格を上回れば「勝ち」、下回れば「負け」としています。ちなみに公募価格と初値が同値の“引き分け”は、手数料がかかることを考慮し「負け」として扱っています。
どうでしょう、この勝率。2011年まではリーマンショックの影響などにより株価が低迷していた時期とあって、IPOの件数は少なく勝率も低迷しています。
しかし、不景気から脱しつつある2012年頃からIPO市場が活発化し、それに伴って勝率も急上昇。年末には自民党が与党に返り咲きアベノミクス相場が始まったことも影響し、2013年以降は件数、勝率とも素晴らしい数字が並んでいます。
2009年から2018年のトータルの勝率は約80%。近年にいたっては85%ほど。
しかもIPOというのは専用サイトなどで事前にどのくらい上昇しそうかなどが確認できるため、期待値の低い銘柄は応募しないようにすれば、ほぼ100%負けることはありません。
IPO最高だわ(棒)
初値が公募価格の数倍になることがある
IPOの魅力は高い勝率のみならず、人気の銘柄になると公募価格の2倍を超える初値を付けることが珍しくない点も挙げられます。
とりあえず2014~2018年の上昇幅上位3銘柄を見てみろ。
銘柄 | 公募価格 | 初値 | 差益 | |
---|---|---|---|---|
2018年 1位 | HEROZ | 4,500円 | 49,000円 | 4,450,000円 |
2018年 2位 | アジャイルメディア・ネットワーク | 3,000円 | 15,470円 | 1,247,000円 |
2018年 3位 | RPAホールディングス | 3,570円 | 14,280円 | 1,071,000円 |
2017年 1位 | トレードワークス | 2,200円 | 13,600円 | 1,140,000円 |
2017年 2位 | ヴィスコ・テクノロジーズ | 4,920円 | 15,000円 | 1,008,000円 |
2017年 3位 | ユーザーローカル | 2,940円 | 12,500円 | 956,000円 |
2016年 1位 | グローバルウェイ | 2,960円 | 14,000円 | 1,104,000円 |
2016年 2位 | アトラス | 5,400円 | 12,720円 | 732,000円 |
2016年 3位 | イノベーション | 2,770円 | 8,700円 | 593,000円 |
2015年 1位 | ネオジャパン | 2,900円 | 14,550円 | 1,165,000円 |
2015年 2位 | エムケイシステム | 3,500円 | 15,120円 | 1,162,000円 |
2015年 3位 | アイビーシー | 2,920円 | 10,250円 | 733,000円 |
2014年 1位 | CRI・ミドルウェア | 2,400円 | 13,500円 | 1,110,000円 |
2014年 2位 | オプティム | 4,000円 | 14,400円 | 1,040,000円 |
2014年 3位 | ビーロット | 2,010円 | 10,500円 | 849,000円 |
だいたい年間2銘柄くらいは1発利益100万円超えのものが出る印象。そんな中2018年のHEROZに度肝を抜かれたのは言うまでもありません。
運良くこれが当たっていたら一生遊んで暮らせ…ないけど、相当潤うのは間違いない。
一般的なザラ場での株式投資で数十万円を稼ぐのは大変ですし、逆に損をするリスクも十分考えられます。しかし注目銘柄のIPOが当選すればほぼノーリスクで数十万~100万円の利益が転がりこむ。
IPO最高だわ(棒)
元手がかからない
IPOは金かからん。
抽選に応募するのは無料だし、当選した際の購入に売買手数料もかからない。売却時のみ売買手数料がかかるだけなので、最初に購入する代金と片道の手数料のみ。ザラ場での取引以上にお金がかかりません。
IPO最高だわ(棒)
驚くほど当選しないIPOの現実
ネットでIPO関連のサイトを見てみると、そのサイトの当選実績などが載っていることもよくありますよね。中には年間20件とか当選している場合もあります。
しかしこれ、鵜呑みにしてはいけませんよ。
SBI証券以外の証券会社の大半はIPOの分配に際し完全平等抽選という方式を採用しています。申し込み数や資金にかかわらず1人1応募として抽選番号を割り振るという平等な抽選方法。
これであれば銘柄を買える程度の最低限のお金しかない人も、数億円持っている人も当選確率は同じ。私のような貧乏人には嬉しい措置ですね。
しかしね、これがまた恐ろしく当たらない。私はSBI証券以外に完全平等抽選の証券会社10社をIPO専用として使っているが、公募割れのリスクがほとんどない銘柄に絞ると、こういったところからの当選はトータルで年間2~3件が関の山。
この2~3件というのも、1枚で数十万円の利益をもたらすようなプラチナ銘柄の当選は不可能に近く、株数が多く大幅な上昇が望めない大型IPOが主。トータルで10万円儲かれば御の字といったところでしょうか。
そりゃそうですよね。近年のIPO人気によって、新規公開株の85%程度の株数を引き受ける主幹事が多い大手証券ともなると、ネット抽選に回される200~300枚に5万人とか群がるわけですから、そうそう当たるはずがない。
にもかかわらず、IPO関連の人気サイトともなると年間20件くらい当選させていると謳う。しかも完全平等抽選のところからの当選がかなり多い場合も。
考えられる理由は主に3つ。
- 両親、配偶者、子供など家族で各証券会社に複数の口座を開設している
- 投資信託などを積極的に購入し裁量配分で回してもらっている
- 「こんなに当選しました!」という嘘
ひとつずつ簡単に見てみると…
家族名義で各証券会社に複数の口座を開設している
私のように自分1人であれば、10の証券会社を用いても年間の当選数は2~3件程度が関の山。しかし両親や配偶者、子供などの名義でひとつの証券会社につき4~5口座開設すれば、単純計算で年間10~15件程度の当選が見込めるという考え方。
確かにこの方法であれば当選を増やせるでしょうが、抽選申し込み時に当該銘柄が購入できるだけの資金が口座に入っている必要がある証券会社も多く、これを10社程度で行いコンスタントに応募しようとすると数千万円の資金が必要になります。
あと、抽選申し込みの手間が面倒。
裁量配分によりIPOをゲットしている
店頭業務がある証券会社がIPOの幹事になり株の割当を受けると、一定数は証券会社の社員が顧客の取引実績などに応じて新規公開株を提供する「裁量配分」に回されます。
要は「証券会社の利益に貢献している顧客に対し、担当者の裁量により優先してIPOを配分する」というもの。多額の資金を預け入れていたり、投資信託などの金融商品を積極的に買ってくれたりする上客に忖度すると言えば分かりやすいか。
裁量配分を受けるためにはある程度の頻度で店頭に出向き担当者と仲良くなる必要があるほか、最低でも数千万円を預ける、一定の金融商品を購入するなど、証券会社の利益の貢献する必要があります。
ただ、投資信託などの金融商品は証券会社が一定の利益を吸い上げるシステムであるため、顧客にとってはリスクばかりが目立つ状況でもあります。また、投資信託などで損失を被った顧客に“おわび”的な意味合いでIPOを配分することも。
リスクが大きい金融商品を購入して裁量配分を受ける…本末転倒な香りが…
アクセスを集めるため「当選した!」と嘘をついている
可能性として捨てきれないのが、当選したという嘘。
IPOを扱うサイトとしては訪問者に「IPOは儲かる」という意識を植え付け参加者を増やすことは自サイトのアクセスアップ…ひいては広告収入の増加に繋がります。
また当選実績が多ければ「生の声」を期待したアクセス増も望めます。
裏を返せば当選実績を水増ししアクセスアップを狙うこともできる。当選の画像をアップしている場合もあるが、今のご時世IPOの当選報告はSNSやブログなどに多数上げられており、これを流用・加工すれば説得力のある当選画面が捏造できる。
もちろん、すべてのIPOサイトがそうだとは言わない。しかし投資の世界において実績を残していることが重視されるのも事実。
私が10社の証券会社を使用してIPOに応募し現実的な当選確率を鑑みるに、「当選を水増ししてないか?」と感じるサイトが複数存在するのは間違いありません。
多くの投資サイトで「儲かる」とされているIPOですが、実際の当選確率は極めて低く、あまりの当たらなさにうんざりすることも。
IPO応募や確認の手間はバカにならない
IPOが必ずしも儲かるわけではないと感じる理由は当選確率の低さだけではありません。応募に必要な時間や手間を考えると、むしろ損失の方が多いのではないかと感じてもおかしくないのです。
IPOの抽選申し込み方法は証券会社によって異なるものの、多くの場合証券会社にログインし、抽選に応募するIPO銘柄を選んで注意事項や目論見書に同意、その後株数や購入金額を設定する必要があります。これを複数の証券会社で行うと結構な手間。
しかしIPOの手間はそれだけではありません。
今現在どんな銘柄が応募しているのか、それらの銘柄は期待できるものなのか、どの証券会社が幹事になっているのかなどといった点を事前に調べておく必要があります。
また、証券会社によっては当選してもメールなどの通知がない場合が。IPOに当選したとしても実際に購入するには、当選後数日以内に購入申し込みをする必要があるため、当落のチェックをうっかり忘れてしまうとせっかくの当選が台無しに。
それを回避するには抽選が行われた後に証券会社にアクセスし抽選結果をチェックする必要があります。IPOラッシュの時はこれら一連の動きが非常に面倒くさいんですよね。
そういったことを頻繁に繰り返すための時間的損失や手間は馬鹿にならず、当選確率の低さと相まって割の悪さすら感じるほど。
IPOは期待値が低い割に合わない投資
IPOの当選を狙うには複数の証券会社に口座を開設し、かつ資金なしで抽選申し込みができる証券会社以外は各々50~100万円ほど入れておく必要があります。
それを行うには最低でも数百万円の資金が必要ですし、それを行っても年に2~3件当たれば御の字。公募割れの公算が高い銘柄にも積極的に応募すればその限りではないですけど、そんな銘柄を当ててもねぇ…
その2、3件にしても、ある程度期待されている大型案件がほとんどで、“プラチナ銘柄”とされる小粒な案件はまず当たらない。トータルで10万円の利益が出れば良いほう。
元本割れのリスクがほとんどないため、元手がかからない宝くじだと思えば納得できるかもしれません。ただ、手間がかかる割に期待値が低いため、「時間=金」と考えるなら割に合わない場合も。
仮にIPO投資に1000万円使うとすれば、年間10万円の利益が出れば御の字。運が良ければ30~50万円くらいになるかもしれませんが、何年にもわたってコンスタントにそれを実現するのはまず不可能でしょう。
1000万円で年間10万円の利益とすれば年利は1%。応募や銘柄選定、当落確認などの手間を考慮した場合、なんとも渋い数字ではあります。
私は当サイトの話題作りの一環として行っている面もありますので、IPOは今後も続けるでしょう。しかしそういった理由がない人であれば別の投資を考えたほうが良いような気がします。
「時間だけは腐るほどあるぜ!」というなら止めはしませんが…
あわせて読みたい関連記事

信用取引は現物取引に比べ圧倒的に安い手数料が魅力のひとつです。しかし毎日金利や貸株料がかかるというデメリットもあり、「何日くらい保有すると現物より高くつくんだろう?」と考えたことはありませんか?その疑問に応えるべくいくつかのパターンで計算してみました…続きを読む

いざ投資をはじめようとした時「株にするかFXにするか」で迷う人は多いと思います。FXと株式投資どちらが儲かるかは人によって、もしくは投資法によって変わりますが、これらの特徴やメリットデメリットを詳しく解説しますので今後の投資に活かしてください…続きを読む

株価というのは良い材料が出れば上がり、悪い材料が出れば下がるとされています。しかし実際は全体の地合いやトレンドがものをいい、どんなに業績が良くても地合いが悪かったりトレンドが下降気味だったら株価は下がり、逆に業績が悪くても地合いが良ければ株価が上がる…続きを読む

株主優待をリスクなく貰う方法としていわゆる「優待タダ取り」というものがあります。厳密には手数料や貸株料がかかるためタダにはならないものの、銘柄を選べばかなりお得になります。しかし色々と注意点やデメリットもありますので損をしないための具体的な説明をしていきます…続きを読む

信用取引の場合2013年1月から差金決済が解禁され同一資金でいくらでも取引できるようになりましたが、現物取引の場合は差金決済が禁止されており同日中の同一資金による同一銘柄の取引は1往復までしか行えません。分かりやすく詳しい仕組みを見てみましょう…続きを読む

委託証拠金が不足し追証が発生しつつも、それを無視し期限を過ぎてしまったらどうなるのか?私自身が経験した追証から建玉を損切りしたものの結局信用取引を停止され、その後信用取引口座継続の意思確認を経て信用口座が復活した経緯を書きます…続きを読む

割安感を測る指標としてPER(株価収益率)は投資判断でよく用いられ、一般的に数字が低ければ「割安」とされますが、“マイナス”のPERはどうなのでしょうか?これは前期や今期予想などが赤字の場合に見られ、指標として意味を成しませんがV字回復への期待を込めて買うという方法も…続きを読む

株式投資とギャンブルの違いは胴元がいるかどうかもそうですが、やった後に何も残らないギャンブルと違い投資を始めると経済に敏感になり、結果経済の勉強になりますし、世界の人々が集う市場に参加するというのは閉鎖的なギャンブルの世界とは全く別物です…続きを読む