損失の繰越控除を上手に活用しよう

「今年は市場の動きが神経質で損失が出てしまった!」「市場が急変し含み損が膨らんでいる」

株式投資をしていればこういった事態はよくあることですよね。しかし損失が出てしまった状況では「今年のトータルの成績はマイナスなんだから確定申告はする必要ないだろう」と放置していはいませんか?

ちょっと待って、実は株の取引での損失は繰り越せるんです。

「損失を繰り越して何の意味があるのか?」と疑問に感じる人もいるでしょう。しかし損失の繰越控除を知っておくと将来的に利益を増やすことができる可能性が広がるはず。

損失の繰越控除とは?

株式投資によって被った損失の繰越は、正式には『上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除』といって、国税庁によって正式に認められている制度です。

株式投資で得た利益には所得税15%と復興特別所得税0.315%、そして住民税5%の計20.315%の税金が課せられるのはご存知の通り。

年間利益が20万円までであればこの税金は非課税となるなどの措置はあるものの、特定口座の源泉徴収ありであれば利益に対して無条件で20.315%が引かれるなど、基本的には株で得た利益全てにこの税金がかかると思っておいていいでしょう。

この税金、基本的には年間の利益に対して課せられるものであるため、取引に使う証券会社が1つの場合、損失が確定された時点でその損失額に応じてこれまで引かれた税金が自動的に還付され、複数の証券会社を使用している場合には確定申告しすべての損益を明かにすることで税金の還付を受けられます。

しかしここでふと疑問が。1年間のトータル損益がマイナスだった場合はどうなるのか…と。

大きなリスクを伴う株式投資によって利益が出た時は約20%もの税金を持っていかれるのに、損した場合は知らん顔。そしてまた利益が出れば20%引かれるなんて何とも理不尽な話ですよね。

こういった税制上の理不尽さを解消するために存在するのが損失の繰越控除。損失を翌年以降に繰り越すことによって、翌年以降に利益が出た際の税金と相殺できるシステムなのです。

損失の繰越控除の具体例

では損失の繰越控除が具体的にどういったものなのか見ていきます。国税庁に分かりやすい図が掲載されているため、それも使用しながら解説していきましょう。

例えば今年の株式投資の成績が-100万円だったとしましょう。

今年を平成28年として、今年100万円の損失が出たのであれば翌平成29年~31年の3年間損失を繰り越せることになります。つまり損失が出た翌年から3年間はその損失が埋まる利益が出るまで非課税となるのです。

ちょっと分かりにくいかもしれませんので、上図のような例と別の例を挙げて解説していきましょう。

損失の穴埋めが3年間にまたがる場合

今年株式投資で100万円の損失が出てしまった場合どうなるのか?国税庁では下図のように解説しています。ここでは平成28年の損失ということで見ていきましょう。

損失の繰越控除
出典:国税庁


翌年(平成29年)3月15日までに行う確定申告において平成28年分の損失100万円を申告しておくと、29年から31年まで3年間の利益と相殺できるというのは前述の通り。

平成29年に40万円の利益と5万円の配当があった場合、本来は約9万円かかるはずの税金が非課税になり、翌平成30年に繰り越される損失分は55万円。

そして平成30年に30万円の利益と5万円の配当が合った場合、約7万円の税金が非課税になったうえで平成31年に損失20万円が繰り越されます。

そして平成31年に譲渡益10万円と配当30万円の計40万円の利益が出た場合は、繰り越した20万円の損失を差し引き残りの20万円に税金がかかることになります。

本来株の利益は20万円までなら申告の必要がありませんが、このケースの場合は繰越控除を適用するために申告する必要があるのが悩ましいところか。結果4万円の税金を取られることに。

このケースの場合損失の繰越控除の額は100万円。仮に繰越控除を行っていない場合は3年間で約20万円の税金を支払う必要があることを考えると、4万円は許容範囲と言えるでしょう。

翌年の利益が大きい場合

もうひとつ例を紹介しておきましょう。

仮に今年200万円の損失が出て繰越控除し、翌年は300万円の利益だったらどうか? 配当は無いものとして、株の利益にかかる税金を計算してみると…

  • -200万円+300万円=100万円
  • 100万円×20.315%=203,150円

…となり、翌年の株式取引にかかる税金は約20万円となります。

ちなみに、勘違いが多い点として「年間20万円の利益まで非課税」と思っている人もいるようですが、実際は「利益20万円までなら申告の必要がない」です。

ゆえに「100万円の利益が出た場合税金がかかるのは80万円」ではなく、100万円すべてにかかります。

損失の繰越控除を受けるためには

では株式投資による損失の繰越控除を受けるためにはどうすればいいのでしょうか?結論から書くと必ず確定申告をすることに尽きます。

証券会社の口座が特定口座であれば翌年1月末までに「年間取引報告書」が郵送されるので、それを持って確定申告をすればOKです。

一方、もしお使いの証券会社の口座が一般口座なら年間取引報告書を自作しなくてはなりません。年間取引が数回程度ならまだしも、デイトレーダーのように膨大な数の取引を行っている場合地獄を見ることに。

できれば特定口座を使うことをおすすめします。

損失が出た年以降も申告する必要がある

損失の繰越控除を受ける場合、損失が出た年だけ申告をすればいいわけではありません。その損失を控除として使用したい場合、使い切るまで申告する必要があるのです。

翌年から3年間にわたって控除を受ける場合にはそのすべての年に、翌年に大きな利益を上げ1年で控除を使い切ったとしても、控除と利益の額を明らかにするためにその年の分は確定申告をする必要があります。

具体的には、平成28年に損失を出しそれを3年間にわたって使用したい場合、翌29年3月15日までに損失の繰越控除の申告を行い、平成30、31、32年の3月15日までの3年間毎年必ず申告するということ。

仮に翌年に控除額全てを使い切ったとしても、平成30年3月15日までの申告は行わないといけないということになります。これは年末調整により本来確定申告が必要ないサラリーマンはもちろん、無職の人も同様です。

損失の繰越控除適用期間のさらなる損失は?

損失の繰越控除を行い、その後順調に利益を重ねて相殺できればいいが、翌年以降さらに損失が出た場合の扱いはどうなるのでしょうか?

この場合、損失の繰越控除の上乗せが可能になります。

例えば平成28年に100万円の損が、平成29年にも100万円損したとしましょう。その場合平成30~31年は200万円の繰越控除が受けられることになるのです。

平成28年 平成29年 平成30年 平成31年 平成32年
譲渡損益 -100万円 -100万円 0円 100万円 100万円
前年からの繰越損失 0円 -100万円 -200万円 -200万円 -100万円
翌年への繰越損失 -100万円 -200万円 -200万円 -100万円 0円

ただし、繰越控除の期限が翌年から3年間という点に変わりありません。28年に出た100万円の損失は31年をもって失効し、32年は29年に出た100万円のみが繰越となります。

気になる「古い損失と新しい損失、利益が出た場合どっちが先に使われるの?」という点に関しては、このケースだと平成28年の損失から先に相殺されるので安心してください。

平成31年に100万円の利益が出た場合28年の損失で相殺されるため、翌32年には29年分の100万円の損失が繰越されます。

もちろん、そのすべてに申告が必要なのは言うまでもありません。

損失の繰越控除のまとめ

株式投資における損失の繰越控除について、ご理解いただけたでしょうか?

株式投資を始める人は誰しも大きな利益を求めてのスタートになると思いますが、実際にやってみると安定した利益を上げることがいかに難しいことか身にしみて分かるはず。当然損をする年もあることでしょう。

そういった場合は、その損を無駄にしないためにも必ず損失の繰越控除を行うようにしてください。

一年間の損益がマイナスで気分がドヨ~ンとなって「確定申告面倒くさい」というのも理解できます。しかしこの先も株式投資を続けるのであれば損失の繰越しは行っておくべき。

考えてもみてください。100万円の損失が出た場合、相殺できる税金は20万円ですよ。確定申告を行い損失の繰越控除を行うことで100万円の損失を実質80万円に減らすことができる可能性が高くなるのです。

損失が大きければ大きいほど、翌年以降にそのありがたみを痛感することでしょう。

ただし、年間取引報告書を自作する必要がある一般口座の場合色々と面倒になることも。面倒を少しでも減らすためにも特定口座を使うことを強くおすすめします。

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